あおり運転から身を守るために
社会的問題として認知
走行中に後方から極端に車間距離をつめて威圧され、クラクションやパッシング、ハイビームを受ける。そうかと思うと横に出ては幅寄せ、前方に出ては進路をふさぎ急ブレーキや蛇行運転を繰り返される。挙句にエスカレートした相手から無理やり停車させられ恫喝を受ける。もしそれが高速道路上であれば危険極まりないことです。そしてついに、2017年6月に東名高速道路上で停車させられた被害者夫婦が、後続の大型トラックに追突されて亡くなられるという痛ましい事故が起きました。大事故には至らなかったものの、2019年8月には常磐自動車道にて同様の経緯でドライバーが傷害を受けるという事件も発生しました。
常識を逸脱する事件にまで発展し、しかもその過程が生々しくショッキングな映像として流れる機会が増えた影響もあってか、“あおり運転”は、今や大きな社会的問題として認知されるようになっています。
あおり運転により危険な目にあった方は約半数
ドコモスマート保険ナビが独自に調査した結果によると約半数の方があおり運転により危険な目にあったことがあると回答しています。
(調査期間:2020年4月~9月 有効回答数:245)
あおり運転とは一体何なのか
ですが、“あおり運転”そのものの定義は曖昧で、適用される違反規定や罪状も不明確であるのが実状です。先の東名高速の事件で司法が懲役18年の刑と下した罪状も「危険運転致死傷罪」ですが、この罪状はこれまで飲酒や薬物使用状態等に限られていたので、当事件に適用されるのか否かが争点となっていたほどです。
しかし、ようやく警察庁や法務省では道路交通法や自動車運転措置法の改正を検討しており、迷惑・危険運転の厳罰化とあわせて、「あおり運転罪」等という罰則規定が定められようとしています。
“あおり運転”が社会的問題として認知されるようになった今。では、“あおり運転”とは何なのか、どこからどこまでが該当するのか、定義の明確化が望まれます(2020年6月に妨害運転罪として法制化)。
あおり被害にあわないために
車の運転においては、せめて「他人を“イラっと”させて、目を付けられることがない」よう注意することが必要です。例えば、“周りの速度に乗れているか”、“前の車との車間距離は近過ぎたり離れ過ぎたりしていないか”、“不必要に追い越し車線に留まっていないか”、“車線変更や右左折に無理はないか”、“他の車と適切なスペースを確保して駐車しているか”、“急停止や急発進はしていないか”、等に気遣う、相手に配慮したマナー運転を心掛けることが何よりの予防策です。
そして、自分がマナーに失していると感じたら速やかに道を譲り、煽られていると感じたら速やかに避難することも大切です。
一方、無自覚のうちに、相手にとって不快を感じさせる運転とならぬよう注意したいところです。自分にとっては“安全運転のつもりの速度や車間距離”であっても、相手にとっては迷惑運転に映ることもあり得ます。中々悩ましい問題ですが、例えばドライブレコーダー(ドラレコ)を装備しておくことは、犯罪の抑止力を期待できるだけでなく、もめ事になった際の客観的な証拠となります。相手の主張に対して自分の正当性を訴えるためにも、検討する価値はあるでしょう。
あおり被害に保険は適用される?
あおり運転に起因する事故の場合でも、原則、通常の事故と同じく保険約款の規定が適用されます。ポイントとなるのは保険金支払の免責に該当するか否かです。
例えば、賠償保険は「故意や悪意」による事故が免責事由の1つです。確実に相手の車にぶつける行為は明らかな故意ですが、あおり運転の場合は「ぶつかるかもしれないけど、ぶつかったらぶつかったでも構わない」という『未必の故意』に該当することが多く、被害者救済の観点から自賠責保険の「悪意」に該当しないとされています。一方、任意自動車保険の場合は裁判によって判例が様々で、その行為の結果に保険金支払事由が明白か否かで判断が分かれるようです。
賠償保険は当事者間の過失割合(自賠責保険では重過失減額)に応じた保険金が支払われますので、あおり被害で搭乗者が死傷したら相手の対人賠償保険から、車が損壊したら相手の対物賠償から補償を受けられます(対物賠償は任意自動車保険でしか補償されない点には留意が必要です)。
次に、傷害保険や車両保険では「故意」や「重過失」による事故を免責事由に挙げています。これに該当しない限り、たとえ相手から賠償保険金を貰えなくても、自分の人身傷害(補償)保険や搭乗者傷害保険で搭乗者の死傷が、車両保険でマイカーの損壊が補償されます。
なお、車に搭乗中は問題ないと考えられますが、降車してしまった後の死傷については、人身傷害(補償)保険で対象となるか否かをチェックしておくと良いでしょう。
また、自己の過失が0となると保険会社は示談交渉ができません。相手方と直接交渉するのは相当に厄介なので弁護士費用特約を付帯しておくと安心です。
CFP®
1967年生まれ。大学卒業後に入社の大手化粧品会社時代に相談業務を手がけたことを契機にFPとなる。以後、独立系FP会社、保険代理店FP部門を通じ、年間約100件の相談、約200時間のセミナー講師業のほか、執筆・監修等にも多数従事、成年後見人として福祉活動もおこなっている。最終的にお客様が選ぶ道は1つでも、「FPの付加価値として別の角度からどれだけサプライズな発想や選択肢を提案でき得るか」を信条としている。
本コラムはファイナンシャルプランナーが最近の自動車保険の動向について注意すべき点をまとめたものであり、詳細は各損害保険会社のホームページやパンフレット等をご確認ください。